航海2
「これすらも、口にすることは一苦労だがな」
男はカップに注がれたコーヒーを見つめながら独白する。
なにしろ、『死の灰』によって汚染された地域は、動物はおろか、草木一本すら生えていない、という悲惨な状況だ。食物を生産することができない砂漠と『死の灰』に侵された地域を合わせると、地表の70%とも、80%とも言われている位、『死の灰』の汚染範囲は広大だ。
そんな有り様だから、自然作物はおろか、人工合成食品を手にすることも難しい今の時代では、弱肉強食、という表現がぴったりであろう。明日食べる食料の為に恐喝、盗み、最悪の場合には殺人まで日常茶飯事で起こるのだから。
「……せめてもの救いは、『死の灰』の毒性がようやく消えかかっている、ということだが……」
男は窓に目を向け、外の景色に視線を移す。
そこには生物の住まうこと無き砂漠が広がっていた。
「……この砂漠の大地を、どんな手段で元の緑あふれる溢れる大地に戻すと言うのか……」
考えるだけで気分が滅入ってくる。
更にはこんな状況でも争っている人類の存在が影を落とす。
現在の地球、旧時代にはヨーロッパ大陸、と呼ばれていたこの大陸では大きく分けて、二つの大勢力が存在していた。
一つは『クロノス』。
この地を恐怖と圧倒的な武力で支配している勢力。
しかし、この強大な組織が存在しなければ、人類はここまで復興することは恐らく出来なかったであろう。現在、流通している人工合成食品も『クロノス』が開発したものだ。今バーンハルトが飲んでいたコーヒーも、だ。
そして限りある食料の為に厳密な人口調整が必要であって、『クロノス』によって頻繁にホロコースト大量虐殺は行われていた。